
知ってる人はニキビ跡治療を経験してる
生き延びえたとしても、はたして社会が私を受け入れてくれるかどうか……」「だが、それでいいのだ、と思った。
駄目なものは、駄目になっていけばいい。
壊れるものは壊れればいいのだ。
どん底まで落ち込めば、一切を失ってみれば、きっと道はおのずと開かれてくるはずだ、と」「驚きと発見に充ちた幼い日に戻ったかのようだった」その時期の試みは、柳原さんに確実な変化をもたらしました。
それは「偉大なる数十センチメートルもの便が、すっくすっくと一日に多いときで四回も出る」という「すさまじいほどの便通の変化」からはじまり、その結果としての肥満の解消、日常化していた肩こり、片頭痛、目の下の限、肌のくすみが消えるなど、変化は目にみえるかたちであらわれました。
心理面でも大きな変化がおこりました。
「発病前の私は、始終、あらゆることに苛立っていた。
将来を焦り、経済状態を焦り、仕事の成果、見通しを焦り……。
だが、そうした苛立ちが一切、消えたのだ」そして柳原さんは、ある「覚り」にも似た心境に到達し、卒然としてシンプルな詩のようなことばを書きつづるのです。
「次にやってきたのは季節とともに移り変わる自然の営み、生物のささいな日常、人々が生きてそこに在ることへのかぎりない敬意と感動、そしてそれらに囲まれて生きている我が身を支えてくれている家族、友人、近所の人々への感謝だった。
過去を腰罪し、今日一日を生ききる。
望むものはきわめて単純だ。
やすらかな死。
あわよくば得られるかもしれない生。
生の中身もまた、きわめて単純だ。
眠り、触れ、感じ、考える……。
柳原さんは同書のあとがきを「献辞」として、患者仲間・医師・友人・家族など、世話になった多くの人たちの名前をあげ、ひとりひとりに感謝の気もちをのべています。
長い献辞の最後の相手は「がん」でした。
「がんに。
がんという病でなければ、私はこれほどまでに全身全霊を打ち込める三年を過ごすことができたかどうか……。
人生のあらゆることを考え直す視線を得ることができたかどうか……。
しばらくは、静かに、していてください」セルフヘルプの思想柳原さんが苦悩のすえにつかみとった思想や方法は、がんにかぎらず、あらゆる病気の患者にとっても貴重な指標になるものであることはいうまでもありません。
治癒や代替医療に関連する部分だけをひろいあげてみても、随所にみられる説得力のあることばには、「読むクスリ」といってもいいほどの、治癒へのヒントが隠されています。
たとえば「動物としての生命力」「動物になってみよう」「自分の身体を野生に戻す」などがそれです。
医療の対象が「いのち」であるとすれば、人間が医療を生みだすはるか以前から営々として営まれ、いまなお人間をふくむ動物や植物において営まれている普遍的な「いのち」の活動のありように治癒のモデルを探ることは、ごく自然ななりゆきです。
いのちは地球上では一匹の動物として、一株の植物として、また「わたし」としてあらわれてあり、健康や病気や死も、そのあらわれのなかにふくまれています。
「自己」であること、健康であること、病気であること、死ぬこと。
そのいずれもが、いのちのあらわれの一局面そのものである。
それに気づいたときはじめて、「望むものはきわめて単純」だったことがわかるのです。
そう、「やすらかな死」「あわよくば得られるかもしれない生」「眠り、触れ、感じ、考える
われわれがそれ以上のことを望むとしたら、それは強欲であり、傲慢であることの兆候なのかもしれません。
われわれにできる唯一のことは、じつは「今日一日を生ききる」ことしかなかったのです。
病や苦しみを得て、自己を究極的にゆだねるべきは医療ではなく「いのち」であることに気づいたとき、一種の放下がおこり、その結果、まるで勇気をもって放下したことへの恩寵のようにして癒しがおこるという事例は、柳原さんだけではなく、多くの人たちにみられる普遍的な真理であるにちがいありません。
「放下」とは捨て去ること、迷いや執着を手ばなすことです。
捨て去って、自己を大いなる「いのち」に全託することです。
自己を、自己としてあらわれている「いのち」に返すことです。
すべてを「いのち」にゆだねて「今日一日を生ききる」それはなににも依存しない、自助の姿勢です。
一匹の動物だった自己に還ることです。
ただ、ひとつだけ動物とは異なるところがあります。
それは、ことばをもった人間が欲望だけではなく、希望をもつ存在でもあるということです。
単純だけれども望みをもつ。
死を拒絶はしないけれども「やすらかな死」を願う。
「あわよくば」生を得たいと望む。
「眠り、触れ、感じ、考える」ことの喜びを望む。
「アイスマン」の鍼治療やハーブ療法の痕跡からも推察できるように、医療とは本来、その単純な望みから生まれたはずのものでした。
その単純な望みは、全託の姿勢や自助努力を前提として、それらとワンセットになってこその望みだったはずのものでした。
ところが、われわれはいつしかその前提を忘れ、希望と欲望を混同し、ほぼ全面的に医療に依存するようになっています。
代替医療に造詣が深いジャーナリストの井上朝雄さんのインタビューに答えて、柳原さんはこう語っています。
「じつは私も最初は『どうして医者が代替医療を使わないのか』という思いがありました。
でも、それはまた医者をオールマイティにするだけなんです。
一方、代替医療の治療家に依存しても、それは委ね先が別のオールマイティに変わっただけなんですね。
宗旨が神からマルクス主義に移行しただけ。
患者が依存しているという心理状況は変わっていません。
うまくいけば正しいし、うまくいかないときは恨むという心理をどうするか、という解決にはなっていきません」「医者は自分の専門である医療に突き進んでくれればいい。
その一方で、食事療法など、さまざまな代替療法は、それぞれのエキスパートによっていいものがもっと蓄積されていって、それが現代医学と対立するのではなく、ともに進んでいくという形をとる、というのがいいと思っています」「そして、私たちはそれらを選択して、自分流に組み合わせていく。
現代医学を軸としながらも、それ以外の領域では『私はこれとこれを組み合わせてやる』という立場に立つこと。
つまり、自分がやっていることを見通せる位置に立つということです」(『望星』二〇〇一年三月号)代替医療にとりくむときの基本姿勢である「セルフヘルプ」(自助)の思想を、みずからの経験のなかからつかみとった柳原さんに敬意を表するとともに、柳原さんのように、現代医学と数多くの代替療法のなかから選択し、自分流にくみあわせていく、医療の賢明なユーザーがふえていくことを期待せずにはいられません。
おわりに代替医療とどうつきあうか代替医療にまつわるさまざまな所感を筆のおもむくままに書きつらねてきました。
それはあらかた「代替」とはなにか、「医療」とはなにかという、ふたつの大きな主題をめぐる断想のモザイク制作のような作業になりました。
そして、いきついたところが、自己を「いのち」に全託したうえでの「セルフヘルプ」という態度の必要性でした。
それは代替医療にかぎらず、あらゆる医療についてもいえることでした。
したがって、「代替医療とどうつきあうか」というテーマの基本姿勢も、現代医学をふくめ、「医療とどうつきあうか」というテーマのそれとべつのものではありません。
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